メジャースプーンをあげよう

 ベチッ

「いって」
「調子に乗らない」

 ―――わけもなく、思いきり叩いた。
 上坂くんはいつもみたいにヘラヘラ笑って、今度は肩に手を回してこようとする。

「ちょっと何やってんの」
「えー寒いからあたためあおうと思ってー」
「どっかの歌詞みたいな事言わない」
「つれないなー」
「寒いなら早く帰ろう」
「っていうのはちょっと冗談でー」

 今度は私のマフラーを少し引っぱって寄せたと思ったら、鼻をむぎゅっと掴まれた。

「!?」

 半ば反射的に手を払おうとして失敗する。
 上坂くんが立ち上がったからだ。
 街灯の影になって表情が見えにくい。だから私も立ちあがった。

「ちょっと何、鼻、痛かったんだけど」
「ほらねー」
「何が」
「ふざけてた方が、いつきちゃん敬語じゃなくなってくれる」
「なっ」

 そう言うと今度こそ手を握られ、しかもそのまま上坂くんは歩き出す。
 振りほどこうと思っても予想以上の力でどうしようも出来ない。



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