メジャースプーンをあげよう

「……上坂くんが?」
「そ。わざわざ私使って呼びに行かせるとこが、先週までと違うでしょ」
「年の功的なカンはどこいったんです」
「アッ痛い」
「……行ってきます」
「はーい、いってらっしゃい」

 今度詳しくねとウインクを投げてきた結衣子さんは、私が何か言う前にいらっしゃいませと1トーン高い声を店内に響かせた。
 あの日、駅で別れた時。
 上坂くんが言った事が後半よく聞こえなくて、素直にそう伝えた。
 でも上坂くんは「聞こえなかったんならいいよ」と笑って手を振っていた。

(……なんて言ったんだろう)

 もう1度聞くのもと思うし、でも気にならないと言ったら嘘になる。

「いつきちゃん」
「あ」

 とか何とか考えながら歩いていたら、キッチンから呼ばれた。
 月曜の夕方はそこまで混まない。
 ウチの店は平日だと火・水・金が繁忙日だと、オーナーと結衣子さんが言っていた。
 だから今の上坂くんは先週金曜よりずっと余裕そうに、ときどきレジにも対応しているくらいだ。

(こういう日は絶対上坂くんが呼びにくるのに)

 結衣子さんの言った通り、上坂くんはやっぱり気にしてるってことなのだろうか。


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