メジャースプーンをあげよう
でもそんなこと、上坂くんの前で態度に出したら余計に気まずくなるだけだ。
「結衣子さんから聞いてきました。なんでしょう?」
「あー、あのね」
合ったと思った目が逸らされる。
(……なんか、やだな)
うまく言えないけど、率直に寂しいと思った。
人懐っこい子だからこそよそよそしくされるのは寂しい。
(でもここで私も同じことしたら、もっと遠くなっちゃうかもしれないし)
いつもの笑顔を保つよう意識しながら上坂くんに呼びかける。
「はい」
「……ポットサービスを」
「え」
んん、と軽く咳払いをして、今度はちゃんと目を合わせた上坂くんが続けた。
「いつきちゃん、ポットサービスお願い。フロア15に17時で」
上坂くんは笑顔を作っている。違う、意識して作ろうとしているのが分かった。
今までは「ご指名だよ」なんてからかってきていたのに、声が微妙に沈んでいるし何よりうまく笑えていない。
「フロア15に17時ですね。グアテマラですか」
「うんよろしく」
「…あの、上坂くん」
「んー? なーにー」
「……いえ、なんでも。わかりました、準備次第行ってきます」
「よろしくね」
そう言った笑顔に力がないように見えたけど、今は「はい」としか言えなかった。