メジャースプーンをあげよう
通されたのはA-1会議室。
(よりによって……)
いちばん苦手な場所だった。
前の職場の会議室に似ていて、嫌な事を思い出しそうだ。
でも、睦月さんの形容しがたい優しい顔を初めて見たのもここだった。
私にとっては複雑な場所。
「どうぞお座りください」
「へっ」
ぼんやりしている間に気付けば後ろに立っていた睦月さんが、椅子を引いている。
まるでお嬢様のために椅子を引く執事みたいな……
(って何考えてんだ私は)
「どうぞ。ポットは机に置いてくださって結構ですから」
「あ…ありがとうございます」
言われるがまま腰を下ろすと、睦月さんは私の座った椅子を整えたあと向かい側に回って同じように腰を下ろした。
(……なに、この状況?)
名前を聞けば誰だって知ってる大手の広告代理店の、いち会議室。
向かい側には睦月さん。
真面目な顔をしているとあえて付け加える必要はないのは、睦月さんのコレは意識しているわけじゃないから。
(就職試験の面接みたいなんだけど)
何よりお届けだけでこんなに時間をもらって大丈夫かなと時計を探すと、睦月さんが言う。