メジャースプーンをあげよう
「すぐ済みます…というのもおかしな話し方ですが」
「え?」
「立ち話ついででは失礼になると思ったもので」
首をかしげて続きを待った。
どうにも睦月さんはわかりにくいけど、おかしなことをする人じゃない。
逆に生真面目すぎて心配になるくらいで―――
「明日の夜、空いていますか」
「……はっ?」
「明日の夜です。突然なのは重々承知していますので断っていただいても結構です」
(久しぶりの結構です…じゃなくて)
「明日の夜…ですか?」
「ええ」
睦月さんはこっくりと頷いた。
その顔はさっきまでと全く変わっていなくて、もしかしてと一瞬でもドキッとした自分を恨む。
(あ!)
「コーヒーの話とかなら私まだ勉強中ですけど…」
「いえ、そうではありません。個人的にお誘いしています」
「こじんてき」
「個人的にです」
(え……え?)
突然の展開過ぎて意味がわからない。
「明日の夜は空いてます……けど」
「お仕事は何時までですか」
「ラスト……20時です」
「わかりました。ではエントランスでお待ちしています」
「……はい」
意味がわからないまま、口は勝手に動いていた。