メジャースプーンをあげよう

 レジの最終点検を終えて金庫袋を持ち、事務所に入ってきたところまでは気付いてたけど、こんなに近くにいたとは。
 そんなこと全然気にしてないらしい上坂くんは、それでも微妙に目線がずれたまま手を腰に当てた。
 大げさなジェスチャーも彼の会話術のひとつだ。

「けーいーご」
「え」
「だーかーらー、もう仕事終わったんだから、敬語いいって」
「いきなり言われても」
「じゃあふざけよっか」
「やめてください」
「てかもしかして、あいつとなんかあった?」
「えっ」

 いきなり突っ込まれた「あいつ」に動揺してエプロンを落とす。
 しまったと思ったってもう遅い。

「やっぱねー」
「……な、なにもな」
「バレバレだよ? だっていつきちゃん、昨日ポット届けに行ってからどっかいってること多かったしー」
「どっかって」
「なんつーの? 心ここにあらず? 時々ぼーっとしちゃってさ」

 落としたエプロンを拾って軽くはたく。
 1度袋に入れてから鞄に入れる。それだけのいつもの動きなのに、手が少し震えた。
 上坂くんと何かがあるわけでもないのに、なんでこんなに悪い事してる気になってくるんだろう。


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