メジャースプーンをあげよう
「もしかしてだけどー、メシでも誘われてた?」
「なんで知っ」
「は? マジで?」
(……だからなんで私は)
「ホンット、いつきちゃんって時々バカだね。皆瀬さんの言うとおり」
(ここで笑ったりするところ、なのに)
頭ではグルグル考えているのに、身体が動かない。
エプロンをしまい終えて鞄から手を出そうとしたところで固まって、顔だって俯いたままだ。
(……どうしよう)
「もうちょっとうまく誤魔化すこととか覚えた方がいいんじゃない?」
「あはは……」
どうにか声は出た。でも掠れてる。全然うまくできない。
だって上坂くんの手が私の鞄に入ってきて、そこにあった私の手を掴んだから。
「しっかりしてんだかしてないんだか」
言いながら鞄から手を出してくれる。
それでも手は離れない。
(あの夜に聞こえなかった言葉)
(―――本当はもしかしてって思うことはあった)
「なんでだろうね? なんであいつなの」
(でも上坂くんは大学生だ。そんな子が28の私にどうこう思うなんて)
上坂くんの声と頭の中の声が交互に聞こえて、おかしいくらいドキドキしている。