メジャースプーンをあげよう

 腕だけなんとかすり抜けて、上坂くんの背中を撫でた。

「へっ!?」

 それがどのくらい意外な反応だったのか、抱きしめてきたのはそっちのくせに思いきり身体を離される。
 いつも飄々としてて軽くて余裕な上坂くんの顔が真っ赤だ。
 その上ひどく慌てたように口をぱくぱくしていて、うまく話せてない。何と言うか、年相応?成人した大学生といってもやっぱりまだ学生の、カワイイ男の子だ。

「かーわいー」
「いやびっくりしただけだし!」

 しかもそんな自分がカッコ悪いと思ったらしいところまでひっくるめて、全部が若い。

「じゃ、お疲れさまでした」
「待っ」

 背を向けかけた私の手首を掴んで、上坂くんは止める。

「行かないで、ほしい」
「……約束してるって言ったよ」
「わかってる。でも嫌だ」
「………なんで?」
「今さら言わせる?」

 年上ぶりたいわけじゃないし、意地悪したいわけじゃない。
 でも態度だけじゃ伝わらないこともある。上坂くんからしたら、抱きしめたから、行ってほしくないと止めたから気持ちを察してほしいのかもしれないけど。


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