メジャースプーンをあげよう

「言わせたいって言ったら、どうする?」

 気持ちを言葉にしてくれるまで、私は信じないことに決めているから。

「…………」

 上坂くんは黙って私を見つめている。
 長いため息を吐くと、「今日はやめとく」とつぶやいた。
 両手を上にあげて、降参のポーズをして。

「言ったところで報われる気しないし。てかなーに、いつきちゃん意外とやり手なわけ? そんな風に返されるとは思わなかった。初めてだよ」

(ってことは何回か言ったりしたことあるんだ)

「じゃあ、はい。いつきちゃん」
「え?」

 上坂くんはいつの間にか落ちていた鞄を拾うと、軽く払ってから私に渡してくれる。

「ありがとうございます……」
「いーえー。お疲れさまー」

 そう言いながらまるでエスコートするかのように出口を開けてくれた。

(長い腕と……大きな手)

 さっきまでのことを思い出しそうになるのを慌てて止めると、かるく頭を下げて通り過ぎようと

「お疲れさまでし」
「言っておくけど」

 ―――した瞬間、耳元に唇を寄せられた。


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