メジャースプーンをあげよう
「今日のところは、だからね」
(耳、近っ……)
せっかく冷静さを保てたままこの場から去れると思ったのに、また身体がかたまりかける。
それでも上坂くんに悟られないよう脚を必死に動かした。
「いつきちゃんの頑張りに免じて、今日は行かせてあげる」
耳元で楽しそうに笑う上坂くんに私の精一杯がバレていることに気付いたけど、ここで脚を止めたらきっと睦月さんのところへ行けなくなる。
「今度はおれとデートしようね」
そして上坂くんは最後にチュッと軽い音を立てて耳にキスをしてきた。
(ちょっ、え、は!??)
「おっ……お疲れさまでした!」
山ほどある言いたいことの代わりに悲鳴のような大声をあげて、私は走り去ることしか出来なかった。