メジャースプーンをあげよう

「じゃあ…えっと、お言葉に甘えて」
「ええ、是非。あとこれも」

 睦月さんはそう言って、大きな何かを差し出してきた。

「……手袋」
「手袋です」
「いやこれはさすがに」
「いつきさんの手はとても小さいので冷えるのも早いでしょう」
「睦月さんの手は大きいのであの、サイズが…逆にちょっとあぶないっていうか」

 かたまった。
 それまでキビキビしているいつもの睦月さんだったのに、目の瞬きまで止まった。間があいて、もっていた手袋をコートのポケットにゆっくりと差し入れる。
 全部の動きがロボットみたいになってて、しかも街灯に照らされた頬がちょっと赤くなっていることまでわかってしまった。
 表情は全然変わって見えないのに、頬だけが赤い。

(え?なに、かわいいんだけど)

「……大変、失礼を」
「ぶふっ」

 我慢できずに吹き出す。
 だって、かわいい。かわいすぎる。
 生真面目な人だとは思っていたけど、もしかしてもしかしなくても、さっきズレてると思った「見ている方が寒い」発言もただ私を心配しただけなのかもしれない。
 ひとしきり笑ったあと、困惑しているみたいな睦月さんのコートの裾を少し触ってみた。
 恋人じゃないから手は繋げない。
 でも、もっと距離を縮めたくなった。
 睦月さんは嫌がる様子もなく、さっきよりも距離が近付いたところで駅が見えてくる。



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