メジャースプーンをあげよう
「見慣れない姿って新鮮でいいですよね」
格好いいとも好きですとも言えなくて、笑ってごまかす。
ポケットの中の手がスルスルと動いたと思うと、そのまま指が絡まってきた。
(うえ!?)
思わず手を睦月さんのポケットから引き抜いてしまう。
信号を渡りきっていたから立ち止まるなんて失態を見せずにすんだけど、これはこれでかなりの失態だ。
おそるおそる睦月さんを見ると、思った通りポカンとしている。
「……嫌……でしたか?」
「いや! まさか!!」
全力で首を振って、またズボッと睦月さんのポケットに手を突っ込んだ。
我ながらひどい。ひどすぎる。色気も何もない。
申し訳ないやら情けないやらで睦月さんの顔を見れないまま、駅へと足をすすめた。
「……びっくりしただけです。ごめんなさい、いい年して」
「そういう事でしたか。安心しました」
「あとちょっとあの、意外で」
「意外?」
「…………はい」
(指絡めてくるとか想定外すぎて)
正直なところ生真面目な印象の強い睦月さんが付き合おうとか具体的な言葉を口にしないのも、ポケットの中に手を一緒に入れてくれるのも、そして指を自分から絡めてくるのも全部が意外だった。
ポケットの中の指がまた遊ぶように私の指の間をさする。
妙に色っぽい触りかたなのもまた、意外。
心臓が少しずつうるさくなっているのを自覚しながら、睦月さんを見る。
「まあ、俺もいい年した男ですからね」
睦月さんはそう言うと、目を細めて笑った。