メジャースプーンをあげよう

「久しぶりに大学行ったしバイトは休みなんだけどね」

 それでも構わずに上坂くんは話し続ける。

「思ったより早めに終わったしー、いつきちゃんにも会いたくて」

(また簡単にそういう事言う)

「………昨日、あいつと親父の店行ったんだって?」

 急に低くなった上坂くんの声と険のある言い方に、足が止まった。
 ハッと鼻で笑ったのがわかる。
 そっちを向かないから見えないけど、今上坂くんがどんな顔をしているのかがそれだけでわかった。

「親父から連絡入ってさー。都さんが来たって。可愛らしい女性を連れて。しかも世話んなってるだろうから父さんからも挨拶しておいたぞ、だってさ」

 そこまで筒抜けなら仕方ない。
 ため息を吐いて、諦めて答える。

「……すごく美味しかったです」
「ありがと。うちの親父ねー、店もってたんだよ」
「………え?」

 足が止まった。
 上坂くんが皮肉めいた笑みを浮かべて私を見ている。
 まだ大学生の男の子にはそんな笑い方、似合わない。
 何も言ってないけど伝わったのかもしれない。上坂くんは逃げるように目を逸らした。

「じいちゃんから継いだ店がね。……もうないけど」

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