メジャースプーンをあげよう
(……で、えーと)
「大丈夫だった?」
投げてくれたままならよかったのに、なんでガッチリ抱きしめられてる?
身体をひねっても抜けられない。
ぐいぐい押しつけられてはいるけど咄嗟に手をどうにかしたらしく、私の顔と上坂くんの胸の間には私の両手がある意味壁になってくれていた。
(守ってくれたのはわかる。わかるけど)
「いつきちゃーん? 聞こえてる? 大丈夫だった?」
「……大丈夫、でもあの」
「危なかったねー」
「上坂くん」
「なーにー」
「離してください」
「やーだ」
言い合っている間にも数人そばを通っていく。
真昼間からこんなところで、っていうか誰か知ってる人に見られたら―――
「あれー、どうもー」
(……は?)
焦って身じろぎしていたら、上坂くんが私の頭越しに誰かへ声をかけた。
誰かにじゃない、相手が誰だかわかった。だって上坂くんの話し方があの時と同じだから。
「……こんにちは」
背中から聞こえてくるのは紛れもなく、睦月さんの声。
(なんでこんな時間のこんなところに睦月さんが!?)
(じゃなくて!)
「上坂くん! いい加減怒るよ!」
じたばたしながら一喝してやったら、両手をあげて「ハーイ」なんて笑った。
もしかしなくても絶対わかっててやっている。
きっと睦月さんに気付いてこんな嫌がらせみたいなことしたんだ。
「なんでそんな顔するのかなー。おれの気持ちは知ってるでしょ」
「はっ?」
「……昨日のこと、忘れたわけじゃないでしょ?」
そう言って頬に伸ばしてきた上坂くんの手を咄嗟に避ける。
忘れたわけじゃないけど、でも、今私がしなきゃいけないことは違う。