メジャースプーンをあげよう
「……では行きましょう、いつきさん」
睦月さんは何も言わなくなった上坂くんから視線を離し、私にもう1度手を差し出してくる。
視線が気になった。
上坂くんの、刺すような視線が。
(さすがに……ちょっと気まずい)
昨日のことを忘れたわけじゃないし、今ふたりで交わされた会話の意味だって。
勘違いじゃなければ睦月さんは遠まわしに釘を刺したようなものだ。
ちょっかいをかけるなとか手を出すなとか、たぶんそういうこと。
(上坂くんのことは勘違いだって言い聞かせてたけど……)
(睦月さんが言ったこと、否定しなかった)
頬がカッとなるのがわかる。熱くなっていくのがわかる。
自慢にもならないけど、ふたりの人に好意を示された経験なんてないから。
「い、行きましょうか」
「いつきさん?」
俯いて足早に歩き出す。
あわてたように睦月さんが隣に並んだところで、もう1度手を繋ぐことが出来ない。
ここで手を取るのが正解だと頭ではわかっていた。
でも、上坂くんの目が気になって出来なかった。