メジャースプーンをあげよう
「フロア41のコンサルは知ってる?」
「はい」
「フロア27と28のぶち抜きITは?」
「えっと……新進気鋭若手社長の会社ですよね」
「コンサルCEOもIT社長も、都一族」
「………はっ?」
「ちなみにホテル@SQUARE会長が都一族の頂点ジジィ」
「え」
「本当に知らなかったの?」
興味がなかったといえばそれまでだけど、全く知らなかった。
睦月さんに初めて名前をきいたとき「都とよばれるのは好きじゃない」みたいに言われて、そこから苗字をすっかり忘れてた。
でもこの前上坂シェフに「都さん」って呼ばれているのを聞いた時どこかで聞き覚えがあると思った。
都という名を耳にしたことは確かにあったんだ。
「……睦月さんからは何も」
「そうなんだ? まー、そういうところもいつきちゃんに惚れた理由のひとつなんじゃない?」
「え?」
「都の名前に反応しないところ」
「……知ってたら逆に近付きにくいですって」
ホテル@SQUARE会長まで身内だなんて知ってたら、まるで雲の上の人みたいに思えてとても近づけない。
だってきっと睦月さんが身を置いているのは華やかな世界で、私なんかと全然違う。
―――と俯いていたらほっぺたをつねられた。
「痛っ!」
「いつきちゃん、余計なこと考えてたでしょ」
「余計なこと?」
「ミスター結構との今後の付き合いに不安でどうしようとか、くっだらないこと」
「くだらないって……」
「わからなくもないけど。たぶんそれ、1番ミスター結構を傷つける態度だよ」
「……結衣子さん……」
「どうよ。いい女でしょ?ダテに年くってないわよ」
「経験の差ですか」
「耳年増でもあるけどね」
からからと笑いながら、結衣子さんは事務所に引っ込む。