メジャースプーンをあげよう
そうこうしているうちに椅子を全部テーブルに上げ、フロアのモップ掛けも終わった。
事務所でパソコンに向かっていた結衣子さんのところへ戻ると、全ての確認を終えてちょうど閉じたところだった。
結衣子さんは肩を上下に運動させて腕をぐるぐるしたあと、伸びをしながら私を見る。
「終わった?」
「はい。お疲れさまです」
「おーつ。……で、どうすんの?」
「どうするって、何がですか?」
「上坂くん。あの子なりに本気だと思うよ」
「………」
「そのショール」
身支度を整えるために手にしたショールを指さして、結衣子さんは続ける。
「寒いから届けなきゃってオープン前に来て持ってったの。でもいつきちゃん、マフラーもショールも他に持ってるじゃない?」
「……はい」
「会う口実にしたかったんだと思うよ。今日シフト入ってないから」
「…………」
はっきり好きだと言われたわけじゃない。
遠まわしに匂わせて、耳にキスはされた。
でも、はっきり言われたわけじゃない。だから振りようもない。
私は睦月さんを好きになっているしお付き合いが始まったばっかりだ。それが答えになるならいいけどたぶんそういうことじゃない。
(ちゃんと言われたら答える。じゃ、だめなのかな……)
「ま、あの子も色々わかってるだろうしそのうち諦めるだろうけど」
立ち上がった結衣子さんはマフラーを巻いた。
私もショールを巻いてコートを羽織り、一緒にエレベーターへと向かう。
その時携帯が震えた。着信メールが1件。睦月さんだ。
【残業確定。改めて連絡します。帰り道には充分気を付けてください。 睦月】
(……業務連絡みたい。らしいといえばらしいけど)