メジャースプーンをあげよう
陽が落ちるのはだいぶ遅くなった。
でもこの時間はさすがに真っ暗だ。
そんな当たり前のことを、空を見上げながらぼんやりと考えていた。
ビルを出てすぐ、上坂くんは「あいつは?」と聞いてきた。「残業で」と答えた私に頷いたっきり、黙ったまま斜め前を歩いている。
(き、気まずい)
(……あ)
「上坂くん」
「……なーに?」
少し遅れて上坂くんが振り返った。
「あの…ありがとうございました。これ、取りに行ってくれて」
首に巻いたショールに触れながら頭を下げる。
日中会った時ちゃんとお礼を言っていなかった。
上坂くんはわざとらしく肩をすくめて笑う。
仕草だけはいつもと変わらないのにどこかしおらしくて、少しだけいつもと調子が違うからこっちの調子も狂う。
「べつにいいよー、そんなこと」
「でも」
「てか取りに行ったって、皆瀬さんから聞いたの? っつって他にいないか」
「……あ」
「ホント気にしないで。おれが会いたかっただけだから」
上坂くんは私より背が高い。
頭ひとつは違う。
そこからまっすぐに私を見つめていた。
やわらかいレモン色みたいな街灯の灯りが上坂くんを照らす。
外灯と並んだ時の高さと目線でわかったのは、睦月さんよりは少し低かったこと……なんて、今思いだすのは不謹慎かな。
「あれー? 今日は逃げないんだね」
「……逃げたらダメな時くらいわかります」
「急に大人ぶってずるくない?」
「少なくとも上坂くんよりはいい大人ですから」
ちぇーと言いながら上坂くんは両手をポケットに突っこんだ。
駅の方へ首を動かし、首をかわいらしく傾げる。
「今日は寒いから、ちょっと付き合ってよ」