初恋に捧げる私の恋の歌
ブーツを脱いでコートも脱ぐ。足の裏に当たる砂が気持ちいい。




水が足に当たってくすぐったい。冷たいし、体温が奪われるのが分かる。




でも、私は足を止めれなかった。




パシャパシャと音を立ててドンドン進む。




足首までしかなかった水がスネのあたりまで来ている。




ブーツ履いてなくて良かった。




干すのが大変だもん。





そう思いながら進んでいく。




膝ぐらいまで水が来たあたりで足を止める。




先輩達が、みんながいるのにまた自殺。




そう思ったがあの、水面に浮かぶ月のところへ行きたかった。





一歩踏み出だす。一歩踏み出したら決まりだ。



あとは足を進める。




「何してんだよ!」





後ろから腕を掴まれて引っ張られる。





「あんた死ぬ気かよ!そっから先はいきなり深くなんだぞ!」





後ろにいるのは真っ黒い髪の男の人。




私は引っ張られて岸に連れ戻される。




男、おとこ、オトコ。




嫌だ、嫌だ、嫌だ、




「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」





私は下に座り込んで頭を抱えて丸くなる。




あの時の記憶がフラッシュバックする。




再婚相手の父親に意味のわからない暴力を振られて、しまいには犯される。



その時の記憶が蘇って吐き気がする。




「まーーーいーーーー!!!!」




思考の渦に飲まれる前に凛香の声が響く。





凛香?





「愛生!」




先輩?





「愛生ちゃーん!」





香野葉?





「まい!」





明麗紗?





みんな?






「急にいなくなったからどこ行ったかと思ったよ!」





「どうして海なんかに!」




「勝手に行動したらめっ!でしよ!」




3人が抱きついて来る。



目には少しだけ涙がたまっている。




居場所はあった。




何してんだろ私、みんなに迷惑かけて。





「波留(はる)、ありがと」



柚莉先輩が助けてくれた男に礼を言う。




男は柚莉先輩に頭だけ下げると溜まり場に戻って行った。




「もー愛生〜なんであんなことしたのぉ〜」




「月が、綺麗で」





「うん、愛生のことだからそんな感じだろうね」




「そんな天然なところも可愛いんだけどねぇ」





「流石にそれは甘やかし過ぎだぞ」




柚莉先輩が苦笑しながら言った。




「ほら、ブーツとコート」




「あ、ありがとうございます。」




柚莉先輩が私が脱ぎ捨てていたコートとブーツを持って来てくれた。




波留。



あの人は何者だろうか。
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