自殺カタログ
両親に借金。


そう思っても、あたしの心は痛むことはなかった。


それもいいかもしれないと感じる。


あたしの人生は、お母さんとお父さんが離婚したあの日に終わってしまっているようなものだ。


普段のうっぷんを少しでも晴らすために、借金を背負わせてやるのだ。


お父さんと一緒にいるあの女はきっと逃げ出してしまうだろう。


お父さんは1人になった時気がつくだろう。


あたしがどれだけ頑張ってきたのかを。


「面白そう。もっと、他に死ぬ方法は?」


あたしは質問しながらフェンスに足をかけて上っていた。


ここから飛び下りても死ねない可能性がある。


それがわかった今、ここから飛び降りることはできなかった。


フェンスを乗り越えて男の前に立つと、男はまたニタリと笑った。


気味の悪い笑顔だが、その顔は異様なまでに整っている。


その辺の芸能人よりもはるかに美形だ。


だからこそ余計に背筋が寒くなった。


「あなたにこのカタログを差し上げましょう」


男はそう言い、持っていた冊子をあたしに差し出して来た。


カタログのタイトルには『自殺カタログ』と書かれていて、笑顔で首を吊っている男性のイラストが表紙になっている。


とても趣味が悪いカタログだと言う事はわかった。


「なんですかこれ。死に方が載っているんですか?」


そう聞きながら顔を上げると、男は目の前から消えていたのだった……。
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