自殺カタログ
☆☆☆

3人が教室からいなくなって数時間が経過していた。


百花が3人とも風邪で休みだと先生に伝えたため、先生はアンミたちが登校して来ていることすら知らなかった。


それでも、その情報を正そうとする生徒は誰1人としていなかった。


アンミも龍輝も月乃も教室にいないから、知らないふりがしやすいのかもしれない。


見える場所でのイジメより、見えない場所でのイジメのほうが傍観者にとっては都合がいい。


妙な罪悪感を抱く事もなく、『知りませんでした』で突き通すことが可能だ。


「帰ってこないねぇ」


昼休みになってお弁当を食べ終えた理央がそう呟いた。


「そうだね」


あたしはお腹が一杯で眠くなっていた。


欠伸をかみ殺しても、瞼が重たくなっていくのを感じる。


アンミも龍輝もいない教室はとても静かで、平和だった。


これこそ教室本来の姿だ。


だけど、常にイジメられていたあたしからすれば、少しだけ物足りなさも感じる。


「芽衣」


声をかけられて振り返ると、そこには晃紀が立っていた。


晃紀を見た瞬間、自分の心臓がドクンッと高鳴るのを感じた。


「な、なに?」
思わず声が上ずってしまう。


顔が赤くなっていくのが自分でもわかった。


「これ、食べる?」


そう言って晃紀が差し出して来たのはチロルチョコだった。
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