自殺カタログ
理央には全員分のサインをもらったと言っているから、当然晃紀のサインも持っていると思っていることだろう。


だけど、あたしは晃紀からサインをもらう事はしなかった。


しなかったというより、できないでいた、という方が正しいかもしれない。


晃紀と付き合い始めてからサインをもらうタイミングはいくらでもあった。


だけど無理なんだ。


死と直結しているハガキに晃紀の名前を書かせることはできない。


晃紀があたしをイジメていた時の事を完全に忘れたわけではない。


それなのに、一歩を踏み出す事ができないのだ。


それはきっとこうして2人きりで過ごす時間がとても心地いいからだろう。


話しかける晃紀の声は優しくて、とても穏やかな時間が流れている。


これが、あたしの邪魔をしているのだ。


「昨日の写真って、本当にアンミの幽霊なのかな?」


学校の校門を入ったところで不意に晃紀がそう言って来た。


「さ、さぁ? わからないけど、あたしにはそう見えたよ?」


あたしはできるだけ自然な感じでそう答えた。


登達の前では簡単に嘘をつけたのに、晃紀の前ではどうしてもボロが出てしまいそうになる。
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