自殺カタログ
この卵焼きを食べられているのはこの女のおかげだ。


ここで不機嫌になられるのは避けたかった。


ただ素直に疑問だったのだ。


あたしの父親はただの中年男性で、実年齢よりも老けて見える。


その上仕事もしていないし、家の事も手伝わない。


この女が本気で好きになるようないい所が見当たらなかったのだ。


だけど女の話を聞いて理解できた。


女はプロのモデルになりたかったのだろう。


その夢を叶えるためにお父さんと再婚したのだ。


『好きだから結婚したに決まってるでしょ』



なんて言われたらどうしようかと思っていた。


あたしは『自殺カタログ』に女にサインをさせてしまったのだから、本物の愛情なんて持たれていては困る。


あたしは椅子に座り、自分の分の目玉焼きに箸を伸ばしたのだった。
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