自殺カタログ
少年が元気よく手を振り、公園を出て行く。


その様子をあたしは苦い気持ちで見送った。


「さてと、これが実行されるかどうかだね」


理央は役目を終えたというように息を吐き出して、そう言った。


あたしは少年の名前が書かれているハガキに視線を落とす。


「問題は、『ポストに入れて置く事』って部分だよね。誰の家のポストでも大丈夫なのか、それとも少年の家のポストじゃないとダメなのか……」


そう言い、理央があたしを見る。


「それとも、このカタログを渡された芽衣の家のポストじゃないとダメなのか」


その言葉に一瞬背筋に寒気が走った。


相手を自殺させるために必要な情報であることはわかっていたけれど、あの少年の笑顔を思い出すと胸の奥が重たくなっていく。


「とりあえず、芽衣の家のポストに入れてみよう。それで翌日なにも起こらなければハズレってことで」


そう言いながら理央があたしにハガキを握らせた。


このペラペラな用紙一枚に、あの少年の命がかかっているなんて信じられなかった。


「ハズレって……アイスの棒じゃないんだから」


あたしはそう言って理央を睨んだ。


「なに怖い顔してるの? このままイジメられてていいの?」


理央の質問に口の中に土の味が広がって行く。


気絶している間に口の中に土を突っ込まれたなんて、死んでも言いたくない出来事だ。


「わかってる。あたしはいつまでもクラスカーストに怯えてなんかいないってところ、見せてあげるから」


あたしはそう言い、ハガキを手の中でグッと握りしめたのだった。

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