秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 帰宅後、母に話すと驚きと同時に嬉しそうだった。

「そうね、園なら安心ね!……でも、いい?次からは園に通うのではなく、働くのよ。仕事というのは、決して楽しいことだけではないし、キツイこともある。けれど、楽しいこともきっとある」

 にっこりほほ笑む母は、ああ、そうだ、とバタバタと電話を取出しボタンを押していく。

「もしもし、東です!先ほど匠から伺いました」

 どうやら園にかけているようだ。
そこまでする必要があるのかどうかは疑問だが、ひとまず、何が自分にできるのか……探すところから始めてみようと思ったのだった。


 次の日から早速園に足を運んだ。

基本的に毎日放課後出勤すること、学校や家の都合で遅刻や休む時は必ず園に連絡を入れることなど最低限を取り交わすと、園長先生はパンパンと手を叩き、玄関前の大きなホールに全員集める。

「今日からあおぞら園でみんなと過ごすことになった匠くんです」

「あ、東匠です。僕も小学生までここに通ってました。まだ何をしていいのかわからないけれど……まずはみんなと仲良くなりたいです。どうぞよろしくお願いします」

 頭をぺこりと下げると、子供たちと職員のみんなが手をパチパチ叩く中、あの女の子だけ一直線に僕を見つめていた。


 僕はあおぞら園に通っていたころ、どんな少年だっただろうかと思いだそうとしても、自分のことはなかなか覚えていなかった。

外で遊ぶのも好きだったけど、本を読むのも好きだった。
あ、でも、家に帰ったらすぐに夕飯を食べたかったから、できる限り宿題は先に終わらせるようにはしていたっけ。


「ねえ、お兄ちゃん、また今度勉強教えてね!」

 集まりを解散後各々先ほどの続きを始める中、一人近づいて小さな八重歯をにかっと見せて笑ったのは、昨日の算数少年だ。

「ああ、もちろん。ええっと……」

 名札などつけていないため、これから名前と顔を覚えていかなくてはならない。男の子の名前に困っていると、

「おれは池之内虎太郎だよ!みんなからはトラって呼ばれてるよ」

「トラ、か。かっこいい名前だ、よろしくね」

 頭をポンポンと叩くと、トラは目を輝かせて見上げてくる。

「ふおおおおっ!おれかっこいい!?モテちゃう!?」

 昨日の算数に悩ませていた姿はどこへやら、やたらぐいぐいと覗き込んで圧倒してくる。

「え、あ、いや、そう……だね…?」

 しどろもどろに答えたものの、彼の中では肯定の意味になったらしくとても嬉しそうにはしゃぎまわる。

「トラちゃんは好きな子がいるんだものね~?」

 通りすがりの職員の先生から声をかけられると、すこし照れながらもにっこり笑うトラ。

「絶対お嫁さんにするんだ!!」

 気が早い小学生に思わずクスリと笑ってしまい、ついつい「がんばれよ」と応援してしまっていた。
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