秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 僕はあおぞら園を退社して、ますます自分のための時間を増やした。

求人にエントリーするにあたって、各方面への準備もあるし、なによりも自分の武器を考えねばならない。

園長先生の、子供たちの、遥姫の気持ちをむげにするわけにはいかないのだ。

 リビングのテーブルでガシガシと書いては消して、と繰り返すうちに、玄関が開く音がした。

「ただいまー!」

 いつもより少し早目の帰宅。両手には近所のスーパーで買ってきたと思われる食材が袋で持ち込まれた。

「お帰り、母さん。今日は早いじゃん」

 荷物を玄関から台所に運び込み、冷蔵庫にいれたり戸棚に入れたりとテキパキと動いていると、「うん、ちょっと明日は用があってね~」と少し嬉しそうな声。

 母はパートを掛け持ちしている。
日中の仕事がメインだが、朝の早い時間もビル清掃で短時間働いていて、僕としては体を壊してしまわないかとドキドキする毎日だ。

とはいえ、時折調子が悪そうになることはあっても、普段は変わらず元気なので、正常範囲内と判断して「無理しないように」というまででとどめている。

「ねえ、匠」

 リビングから母の声が聞こえ、台所から除くとちょうどそこには僕の進路資料が並べてあり、後姿からは直視している様子が分かった。

「就職するつもりなの……?」

 すこし震えたような声に、僕はなんとなく気まずさを覚え「うん」と答えたけど声のボリュームが下がってしまった。

「もう、決めちゃったの?」

 決めちゃったとかいう問題ではなく、僕は昔から勉強なんて必要最低限でいいと思っていたし、僕が母を守らなくてはいけないから。

他の道なんて考えたことがない。

 問いに答えることができずにいると、母はすとんと椅子に腰を下ろし、苦しそうに大きなため息を吐ききる。


「お母さんはね、匠の可能性を信じているわ。匠のしたいと思う道を応援したい」

 園長先生に言われた言葉が頭をよぎる。

「けど、これはあなたがきちんと選んだ結果のもの?」

 僕は何か間違っていたのだろうか?

「……ごめんね、私のせいね…」

 どうしてそこで謝られなくてはいけないのか。僕はそこまで悪いことをしてしまったのかと責められているようにも感じてならない。
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