秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 ずんと沈んでいた母が急にパン!!と両頬を叩き、くるりと振り返る。

「匠、人生の先輩として言っておくわね!」

 鬼気迫る母の表情に、ごくりと固唾をのみ込む。

「確かに、やりたいことってすぐに見つからないわ。見つかっている人の方が少ないし、日々の生活で変わることもある。
でも、それは決めなきゃいけないことじゃないのよ」

 あんなに優しい母の瞳が、僕を射抜くように見つめる。

 やりたいこと、決めること。……僕にはわかるようでわからない。

母がピシリと背筋を伸ばす。

「直球に言います!!
匠に意志があるならば、大学へ行きなさい!!けれど、やりたい仕事があったり、どうしても大学に行く意味がないというならば仕事をするもよし!!」

 進学、という道。僕には縁のない選択肢だった。

呆気にとられていた僕に、母はいつもの優しい笑顔で少し照れたように頬をかく。

「もう匠も大きくなったからぶっちゃけちゃうとね、別に日々の生活ならばなんとかなるの。朝の仕事はね、匠の進学費用に充てるつもりだったんだ。これからのあなたの人生に私が重荷になりたくないの。
私はね、匠の一番の応援者でいたいのよ。だって……これが、私の人生だから。
お父さんと結婚して、あなたを産んで、あなたを育てることを決めたのは、私なの」


 優しく強い母。

あおぞら園でバイトを始めるときに、園長先生に言われた言葉がある。

『たくちゃんにはたくちゃんの道がある。それは、お母さんと同じものではないのよ?』

 ああ、そういうことか。

 僕は母ありきの選択をしていたのだけれど、みんな、僕自身が選択する道を指し示してくれていたのか。

このとき、憑き物がなくなったかのように、なぜか肩が軽くなった気がした。

「匠、まだもう少し考える時間はあるわ。大学に行ってみない?」

 僕はまだ高校3年生で、働くといっても自分の都合が優先されるバイトという待遇で、ましてや親なんかではなく、うすっぺらな責任の上で仕事をしていた。

ひと一人を支え続けるという覚悟をもって日々生きてきた母に、なんておこがましい考えをしていたのだろうか。


 胸の奥にキーンと響く母の声に、なぜだかすごく遥姫に会いたくなった。
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