秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 それからは忙しかった。担任と急遽面談をして、進学の可能性もあるということを含め再度進路を練り直しだ。

高校の進路指導の先生には「どうせそのうち嫌でも働くんだから、今しかできないことをやってみたほうがいい」とあっけらかんと言われて、なんだか笑ってしまった。

だから僕は就職予定だったけど、大学に行こうと決めた。

今更だけど、僕自身について知るために、僕が必要とされる場所を探しに、僕の大切なものをつくりに行こうと思った。

 幸いなことに、高校もある程度進学校だったし、成績も良好だったので十分に巻き返しは可能な範囲だった。

少しずつあおぞら園と離れる生活に慣れていき、このまま園長先生には会うこともなくなってしまうのかもしれない。

けれど、きっとそれもあの園長先生なら「がんばってるのね」って笑って許してくれるんだと思う。

 家では本格的に受験生モード。母も仕事をすこし早めに切り上げたりしてくれて、ずいぶんサポートしてもらった。
おかげでちょっと興味のある分野も出てきて、これは推薦で行きたいとも思えるようになった。

ただ、このころから、少し母の様子に違和感を覚えた。
体調不良、というわけではないけれど、表情になんとなくぎこちなさを感じるというか……困っている、という言葉の方があっているかもしれない。

「なにかあったの?」

 勉強の合間に声をかけてみるも、返ってくるのはいつもの笑顔。

「なにかってなによ?それよりもはかどってる?」

 あんだけ言ったのだから、今さながら進学費用がないとは思えない。となると、何が問題だろうか。
職場の人間関係?しかし、もう勤務年数も長いのに今更?
朝の清掃の仕事も、勤め始めてから三、四年も経ったと思うし。

と、仕方のないことばかりをぐるぐる考え、しかし綻びひとつ見せない母にかなうわけもなく、「じゃあ、もうひと踏ん張りしてくるわ」と早々に部屋に戻り机にかじりつくことが僕にできる唯一のことだった。

 そんな目まぐるしい日々が過ぎていき、僕は難なく推薦で決まった大学に母は大喜びした。
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