秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 つつがなく、僕は晴れて新生活を迎えた。

 僕はたくさんの人に支えられてきたのだな、と今更ながら思う。
たとえば、今すれ違った駄々をこねて抱っこをせがむ小さな子供も、抱き上げたお母さんも、幸せそうなカップルもどこか遠くでつながっているかもしれないし。

極論だけど、僕は実にシアワセモノだと考えられるのだ。

 大学生活もようやく慣れたころ、ある日の夕方、母に久しぶりに外食に誘われた。

駅で待ち合わせして、近くのイタリアンレストランに入ると、何か嬉しいことでもあるのだろうか、ワインを頼んでワクワクする母の様子にちょっと狂気さえ感じる。

それくらいこんな母は異様なのだ。

「ふふ、なあにそんな怪訝な顔しちゃって」

 母ももうそれなりの歳だけれど、まあ綺麗な人だと思う。

こんな大きな子供がいるようには見られないだろうし、むしろ、僕がパトロンでも連れてるように見られないか不安なくらいだ。

「だって、母さんが酒飲むなんてなかなかないだろう?しかも外食にきてるのに」

 別に母もアルコールがダメなわけじゃない。家でもたまに缶ビールや缶チューハイでほろ酔いでTVにいちゃもんつけることだってある。

それくらい、の話だったのに。

「あと2年ね!」

 むふふと嬉しそうに笑う母にぽかんと口が開いてしまった。

「匠がハタチになるまで!そうしたら、一緒に居酒屋さんも行けちゃうしね!」

 まるでクリスマスを指折り数える子供のように嬉しそうに笑う母に、つられて笑ってしまった。

「そんときはお酌くらいするよ」

 僕の言葉に、目を見開いてふにゃりと目じりが下がる母。

「たのしみだなぁ~」

 ちょうど酒が運ばれ、間もなく料理も並べられたテーブルに久しぶりの外食を楽しんだ。

サラダとスープ、本日のパスタ、そして最後の簡単なデザートとしてバニラアイスが出てきたころだった。

「匠さ、またバイト始めるの?」

 突然の質問に答えを要してなくて、うーんと頭を悩ませる。

「まだ決めてないけど……そうだね、悪くないかなぁ」

 高校の時もバイトというほど働いた記憶もなく、今度はあのときほど甘えてられない。
もちろん勉強もあるけど、僕の選択肢を増やすのにバイトという手もあっていいと思うし。

「あのね、そこでモノは相談なんだけれど……」

 もじもじとしだした母は、目の前のグラスに入ったワインの残りをぐいっと一気に飲み干す。

「か、家庭教師やってみない?」

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