秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 大きな瞳が震え、僕を射抜いた。

小さな彼女が不安そうに僕を見上げ、初めて会った時の顔を思い出した。

「ともだち……ではないよね?」

 僕と彼女の関係を名づけるとしたら何になるのだろう。
この切ない気持ちに、しとしとと積もる愛しい気持ちに、名前を付けることが恐くてたまらない。

ぽかんと驚いている遥姫に、どう答えようか悩んでいると、コンコンと部屋をノックされ、扉を開いたのは義之さんだった。

「匠くん、遥姫、おやつでもどうだい?」

 連れられたのは、顔合わせの時に案内されたリビングだった。

白いソファに囲まれたテーブルには、ガラスの器に白いアイスクリームとウエハースが添えられて並べられていた。

「おにいちゃん、こっち」

 僕の手を引いて隣の席を指定すると、遥姫は楽しそうに席についてスプーンを動かし始めた。

口にはしないけれど、頬張るたびにニッコリと満面の笑みをこぼす遥姫になんだかつられてしまう。

「遥姫は相変わらず大好きだね」

 真正面に座った義之さんが嬉しそうに見つめるので、なんだかいたたまれなくてゆっくりスプーンに手を伸ばす。

そうか、遥姫はアイスクリームが好物なのか、なんて冷房の効いた部屋ですこし緊張しながら口に運ぶと、今度は義之さんは僕に視線を移す。

「匠くん、お母さんは元気かい?」

「あ、はい。相変わらずです」

 母もあれから仕事も変わらず毎日過ごしている。義之さんの会社のビル清掃なんだからこんな風に聞かれなくとも目にすることはあるだろうに、と思った時だ。

「遥姫も匠くんにこんなに懐いて、正直ほっとしているんだ」

 きっと彼女の中で僕には何かしらを許してくれているのだと思う。これが学校の先生や友達、周囲の人たちにもつながるといい。

ただ、そこまでするには僕にはあまりにもチカラがなさすぎるのだ。

それが本来できるのは義之さんなのだと思うけど、たかだか二十歳そこそこの坊主がそこまで口出せるほど勇気はなかった。


「今度、お母様も一緒にみんなで食事でもどうだろうか?」

 その言葉にぱあっと目を輝かせた遥姫の横顔を、僕は生涯忘れないだろう。
< 23 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop