秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 夏に食事に誘われたものの、僕の定期考査や母と義之さんの仕事の都合でなかなか日程が合わず、ようやく実現したのは半年が経とうとした十二月の週末のことだった。

空気も冷え切り、吐く息も白くなり始めて街並みもクリスマスカラーに染まり始めていた。

 高級ホテルの上層階に位置するレストランなんて、僕は初めて足を踏み入れる。

遥姫は慣れているのかわからないが、赤いワンピースを翻し小さなサンタよろしく、僕を見つけるなり手をつないで楽しそうだった。

母も緊張していたけれど、一番心配だった遥姫の様子を見てすこし安心していたようだった。

「はるちゃんは、匠のこととっても気に入ってくれてるのね」

 母の言葉に緊張していたけれど、僕の手を掴んですこし照れたように頷いてた。

料理は、おいしかった……と思う。
煌びやかな夜景、高級感あふれる店内の雰囲気、庶民の僕たち親子の舌は痺れていたにいない。

ただ、みんなでテーブルを囲んで、たわいもない話で笑い合う。その空間は、とても尊いものだった。

 食事が終わりも近づくにつれ、遥姫の機嫌は落ちていく。

最初は眠くなってきたのかと思っていたけれど、そうではない。まあ、これは嬉しいことなのかもしれないけれど……どうやら僕と離れがたいのだと実感する。

繋いで離さない小さな手を握りしめる。

「遥姫、最後じゃないから。また次もあるよ」

 僕の言葉に、しぶしぶ頷くと母がしゃがみこんで遥姫を覗き込む。

「はるちゃん、よかったら匠とおばちゃんのおうちで遊んでみる?」

 遥姫ははじかれたように顔を上げて目を輝かせる。

「か、母さん本気っ?」

 思わずうろたえた僕たちの家は、それこそオンボロではないものの遥姫たちの豪邸に比べれば天地の差がある。

そこに招こうなんて生き恥を晒すのもいいところだ。

「だって、はるちゃんがこんなに寂しがってるんだもの。明日は学校もないし、すこしくらい遅くなってもいいよね?」

 いたずらに笑う母に、僕の手を握る遥姫の手もきゅうっと力が入る。

目の前に静かに見守っていた義之さんを見上げると、一瞬目があって少し困ったように笑った。

「はは、僕が女性に勝てるように見えるかい?」

 と少し情けなくも、しかし否定もしない義之さんがなんとなく身近に感じれた瞬間だった。
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