秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 タクシーで我が家まで移動し見慣れた家に帰ると、僕は昨日たまたま講義が臨時休校で軽く片づけておいてよかったと心底ほっとした。

「狭いところですが……」

 母は二人をリビングに連れて行き、慌ててお茶を出す準備に取り掛かった。

遥姫は初めての場所に戸惑いつつ、僕の手をしっかり握って辺りを見回していた。

「遥姫の家より小さくてびっくりした?」

 皮肉を込めて遥姫に訪ねたのだけど、びっくりしたように見上げてくる。

「おにいちゃんの匂いがする」

「……そっか」

 家の匂いってあるよな、なんて思いながら、決して嫌じゃなさそうな様子にようやく安心した。

「はるちゃん、ジュースとココアどっちが飲みたい?」

 台所にいる母から聞かれ、もじもじと口を開く。

「おにいちゃんと、一緒がいい」

 母は目を見開いてクスリと笑い、「じゃあ匠なににするー?」と声が響く。

本当はコーヒーでもと思っていたけれど……寒さで少し赤くなった鼻の頭の遥姫と一緒だとするなら、こっちだよね。

「外は寒かったしココアにしようと思うんだけど、遥姫はどう?」

「……うん、ココアにする」

 小さくつぶやいた。

 準備が終わるまで、「遊ぶものもなくってごめんね、匠の部屋ならなにかあるかもよ」という母の提案に頷いた遥姫に僕の部屋を案内してみた。

なるべく物は置かないようにしているつもりだけど、テキストやら資料やらが詰め込んである机や本棚をみて、遥姫も驚いているみたいだった。

椅子に腰かけると、改めて僕の部屋に遥姫がいるという現実に違和感を覚える。

「いつもは遥姫の部屋に僕が行くから、なんだか不思議だね」

 声をかけると、遥姫も同じだったのか目を細めて頷く。

 ととと、と近寄ってきた遥姫は、今度は机の上をじろじろと凝視する。

「なにか気になる?」

「……これ」

 指を差したのは、少し前に小銭を作りたくて適当に買った四色ボールペンだった。

「これはねぇ~」

 適当な紙を引っ張り出して、カチカチとレバーを引き赤、青、緑、黒とぐるぐると書きなぐる。

「わあぁ」

 あの遥姫が思わず声を上げるほど感動しているのだ。

おかしくてたまらず笑ってしまったら、遥姫は恥ずかしかったのかすぐに顔を真っ赤にして俯いてしまった。
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