秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 僕が話はじめてから遥姫はやっと口にしながら、首を横に振る。
何度も何度もぬぐっては頬濡らし、僕の言葉を拒否する。

「はる……」

「やだやだ、おにいちゃんがいないと意味ないもん!」

 ぎゅっと抱きついてきた遥姫の背中をそっとなでるくらいしか僕にはできない。

「ごめん、遥姫」

「お手紙書くっていったもん!まだ渡してないもん!」

 机にはあの日のままの四色ボールペンが飾られている。

言葉だけならば、「また会えるよ」とか「いつでも連絡して」なんて言えるのだけど、もうこの気持ちを自覚してしまった僕には到底口にはできない。

そんな覚悟を、遥姫も見抜いたのかもしれない。

 滅多に言わない遥姫の主張も、どうしても受け入れるわけにはいかなかった。

「おにいちゃんがいたから……。おにいちゃんだから……」

 僕のお腹に顔を埋めて離れようとしない彼女に、どうやったら納得してもらえるのか、と淡い期待はそろそろ捨てなければならない。

もう振り切るしかないのだと。

「遥姫」

 膝をついて遥姫の顔を覗き込み、涙で腫れた目じりをぬぐってやる。それでも大きな瞳からはぽろろぽろりと零れて、擦ってはさらに腫れる。

 きっと、君はどんどん綺麗になっていくのだろう。
素敵な人たちに恵まれ、また増長するように君に相応しい出会いもあるはずだ。

そんな君を祝福できるように。

 ひたすら涙する彼女と視線を合わせていると、ようやく僕の服を掴んでいた遥姫の手が緩む。

「おにいちゃん、あのね」

 嗚咽を交えて必死に紡がれる言葉。

「わたしはね、おにいちゃんのこと……」

 震える声に、僕は咄嗟に彼女を強く抱きしめた。

その先は言ってはならない。

腕の中でくぐもった泣き声に僕も目頭が熱くなる。

「遥姫、君なら大丈夫」

 素敵な女性になって、僕なんかを見返してくれ。

それまで、僕たちの小さな小さな恋心は僕が預かっておく。


「さようなら、遥姫」

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