秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 やらなければならないことがあってよかった、と心底思った。
時々空いてしまう時間は、すべて予定を入れて帰宅したら必要最低限をしてすぐ眠れるようにした。

うっかり暇ができると、どうしたって思い出してしまうから。

おかげで周囲には、最近付き合いがいい、なんて評判をもらってしまうあたり、僕は遥姫のことを言えたものではなかった。

 あの日を境に、遥姫は僕と会ってくれることもなく家庭教師を終えた。

残り数回、決まっていた時間はあったのだけれど、遥姫自身が拒否をした。

最後の日に義之さんに挨拶したときは、名残惜しそうにしてくれたけど無理に引き留めるようなことはしてくれなくて感謝している。


 そうして夏を越え、秋が過ぎ、冬が訪れ……そして春が来た。

情けないことに、僕はなぜか内定が1つも出ないまま、最後の学生生活が始まっていた。

「書類選考も一次面接もいくんだけどなぁ」

 先生にも友達にもすごく不思議がられる。

こうなったら神がかった何かが起きているとしか思えなくて、ため息ばかりの毎日だった。

「お祓いにでもいくかなぁ……」

 桜の花びらが舞う青空に呟いてしまっていた。

 その日は僕も気分が落ち込んでおり、無理矢理予定もいれようとしたのに周りには断られ続けて仕方なく早目の帰宅をした。

郵便受けには僕宛ての大きな封筒が届いており、書類数枚の厚さ。

またお祈りの手紙と僕が必死に書き上げた履歴書が入っているのだろう。

自宅について部屋に入るなり、僕はベッドにダイブした。

 上手くいかないもんだ、なにもかも。

いつの間にか意識を手放していたのか、遠くで電子音が響く。それが、自分の携帯電話だというのに気づくまで時間がかかり、なんとか目をこすって電話に出た。

「もしもし?」

『匠!?今どこにいる!?』

「家だけど?」

 焦ったような母の声音に、僕はもう一度携帯を見る。
夕方帰ってきてそのままベッドに倒れ込んだというのに、すでに二十一時を超えていた。

ずいぶん寝てしまったなぁ、なんて思ったときだった。

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