秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
「そこまで母が働こうと思う会社とは、どうやって動いているのかなと思いました」

 このときだけは、就活で詰まるように焦っていた自分が怖いくらい他人に思えた。

口にするとはっきりわかる。僕が一番僕のことをわかっていなかったのかもしれない。

「学んでみてどうだった?」

「楽しかったです!」

 遮るように勢い任せで答えてしまい、はっと気づいた僕はなんとか緊張をほぐすように深呼吸をして答え始める。

「僕はまだまだ机の上で勉強するだけで、実際はもっと緊張感ある中での毎日でだとは頭では理解しています。だからこそ、そういう人たちと一緒に仕事をすることで僕自身も成長してみたい、と思いました」

 空っぽの頭で、よくもまあツラツラと建前な言葉が出る自分に驚きだ。

「あおぞら園でバイトをしたとき、遥姫が僕を必要としてくれました。ただ、その時は何をしてあげたか正直実感はこれっぽっちもありません。
だから、今度は僕は必要とされたときにきちんと応えられるようになりたいです」

 僕は義之さんの目を見据える。

義之さんは笑っているけど、雰囲気は威厳という威厳を漂わせ、ピリピリとした空気がはりぐらされる。

そして、静かにテーブルをトン、と人差し指小突いた。

「うん、そうか。わかった」

 そしてにこりとわらい、カラリと義之さんが戸を開く。

「料理持ってきてくれるかな?」

 いつもの義之さんのトーンで店の奥に声をかけると、続々と運び込まれる料理たち。

本当ならおいしいって味わえるんだろうけど、憔悴と目の前の緊張で、正直味がしなかった。

 その後、僕の話というよりは、義之さんの可愛い愛娘の話と僕の敬愛する母の話で盛り上がり宴もたけなわ。

残り1センチほどのこったグラスの残りを飲み込もうとしたときだった。

「匠くん、もう一度遥姫を見てやることはできないだろうか?」

 義之さんの正体を知ったうえで、遥姫の変化を受け入れることが、今の僕にできるのだろうか。

そんな質問をされているような気がしてならない。

「あ、あの……」

 僕は正直逃げ出したかった。その期待に応えるには、とても覚悟のいるものだったから。

答えられずに、ただじっとグラスを見つめていると、「一度断ったのに、すまないね」と、それは僕の知っている義之さんの声音が響く。
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