秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 そのまま料亭を出ると、門前で待機していたタクシーに半ば強引に乗せられる。
慌てて頭を下げお礼を告げると、「よろしく頼むよ」という義之さんの言葉に「わかりました」と答えた運転手は、僕に料金を請求することもなく家まで運んだ。

なだれ込むように自宅のベッドに倒れ込み、酒臭いため息を一気に吐き出した。

 怒涛の一日だった。もしかしたら、これはチャンスだったのかもしれない。
滅多にない社長直々の自己アピールの場だったのなら、僕はきっと棒に振った。なぜもっと志望理由を言えなかったのだろうか。
いや、そもそも僕から志望したわけじゃないか。

それに、再び持ちかけられる遥姫の家庭教師の話。
僕は行方不明になった彼女を探しはしたけど、それ以上関わるつもりはない。ただ、彼女が幸せになってくれればいいのだ。

 それとも、僕を婿養子にでも考えているつもりなのか?

アルコールの入った脳内では、もはや童話のごとくシンデレラストーリーが始まりそうな勢いだった。


 翌日、体も精神的にもどっと疲れていたからか、いつの間にか意識を手放していたことを、起きてから気づいた。

思えば僕はとんでもない人たちと縁があったのだ。彼女は超有名企業の社長令嬢で、家庭教師を依頼してきたのはその社長。

 いつもより遅めの起床に、ホットコーヒーを入れてくれた母は、こんな僕の顔を見て苦笑いしていた。

「珍しいわね、そんなにお酒飲んだの?」

「うーん、そういうわけじゃないんだけど……」

 ごくごくとアルコールを飛ばすように一気に飲み込んで、舌の上に広がる苦味に、半ば夢だったような気さえしてくる。

「この前ね、あおぞら園の園長先生に会ったの」

「そうなんだ、元気だった?」

「うん、いつも通り優しそうだったわ」

 そういえば遥姫の行方不明騒動の時、とっさにあおぞら園の名前を出して確認することで、園長先生にもいらぬ心配をかけてしまったな。

一度顔を見せに行こうかともこっそり思ったときだった。

「バイトは、もうやるつもりはない?前回はお願いしちゃった形になっちゃったんだけど……」
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