秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
*Epilogue*
「お兄ちゃん、はやく行こうよ!」

 制服のスカートをひらりとなびなせ、遥姫は僕の腕を容赦なく引っ張り玄関へ向かう。

「もう、わかったって」

 昔は背中を撫でそうなほど長かった揺れるくせ毛は、今ではうなじを見せるほど短くなった。
そして意志の強い瞳で僕を見つけだし、とびきりに笑って見せる。

「お父さんはどっちでもいいけど、お兄ちゃんだけはぜーったいに来てよね!!」

 すでに社会に出ている兄の僕に対して、なんともまあ無茶をいう。

遥姫のことだから、と想定済みですでに休みはもらっているけどね。

 そんな絶対的な遥姫からの殺し文句は、あの頃より更に日に日に強さを増していく。

「あはは、大丈夫だから。ちゃんと休みはもらってるよ」


 僕たちは、あれから家族になった。

二人とも再婚ということもあったけれど、義之さんの立場もあったので控え目な式をあげた。

式次第を見て驚いたことに、元奥さん……つまり遥姫の母親も参列していたのいうだから僕は大人たちの懐の深さにただただ開いた口が塞がらなかった。

母もどうやらその辺は承知はしているらしいけど。

「私には仕事のことはわからないからね、仕方ないことだけど」

 と話す母は納得はしていない様子で笑っていた。

そのあたりは母と義之さんの問題で、僕にとっては他人であり、遥姫が傷つかなければそれでいいと思うようにした。


 小学生だった遥姫はすくすく成長し、手足も伸び、その凛とした表情を増長させるように綺麗になっていった。

いつか彼女も気づくかもしれない。
いや、もしかしたら、もう気づいているのかもしれない。
連れ子同士、という僕たちの兄と妹というカンケイはいつでも距離をおけるという、ただのルールの話ということ。

しかし、義之さんの社会的な立場やすでに作られてしまった家庭の雰囲気、なによりもこれからの彼女の未来を考えてみると、僕にはそれを壊す勇気も気力もない。

きっと遥姫もそうだと思う。
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