秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 なんだか気恥ずかしい言葉に、僕は本当は嬉しかったのに手を払いのけてしまった。

「…ったく、もう僕のほうが背も高いし力もあるんだけど?」

 小柄な母なのに、いつまでたっても広いその背中には追いつけそうにない。

「ほんとね、大きくなるのって早いわ。
そのうちあっという間に彼女が出来て、お嫁さん連れてきちゃうのね。そうしたら、どんないじわるでお嫁さんいびっちゃおうかしら」

と、クスクスと楽しそうに笑う母にどうしたってかないそうになかった。

「おー怖い」

 肩をすくめてみせて、ごはんをできるだけ多く口にかっこんだ。

 そんな僕でも、さすがに受験の日と結果発表の日はドキドキした。

同じ学校を受験した友人たちとは明暗を分けたが、まあそれは仕方ないことだし、中学卒業後も何度か遊ぶこともあった。

そして、母に合格を伝えると、いつもの笑顔で出迎えると思いきや、顔が一気にくずれだした。

「たくちゃぁあああん!!」


嬉しそうにグズグズと鼻をすする母は「そうだ、匠。あおぞら園にも顔出してきなさいよ」と微笑む。

 なぜ今更?

小学校を卒業して、しばらく縁のなかった場所だった。

「この前園長先生にたまたまお会いしてね。匠に会いたがってたわ」

 自分の合格に自分自身浮かれていたのもあったんだと思う。

次の日、学校が終わると同時に、自転車を飛ばしてすこし高台に位置するあおぞら園へ向かった。

到着すると、園長先生は一瞬目を見開いたあと、ふっと頬を緩めて「たくちゃん、久しぶり」とすぐに僕の顔を理解してくれた。

「あ、あの、この前高校受験で……えっと、受かりました!」

「まあ、そうなの!?たくちゃんは昔から話を聞くのも上手で、お勉強教えるのも上手だったわね」

 そんな風に僕は見られていたのか。

「よく、がんばったわね。おめでとう!」

 母とはまた違う優しい笑顔に、なんだか急に胸が締め付けられてなんだか喉の奥が熱かった。

「おにいちゃんだれ?」
「一緒に遊んでくれるの?」

 いつの間にやらわらわらと集まっていた子供たちに囲まれてしまい、身動きがとれずにいた僕に園長先生は、嬉しそうに話していた。

「お兄さんね、テスト合格したって教えにきてくれたの!とっても難しいテストだったのよー!」

 我が事のようにこどもたちに話す姿が照れくさかった。

「すごいね!」と各々歓声をあげる子供達の向こうに、ひとりぽつんと佇んでいたのが遥姫-はるき-だった。
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