秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 うさぎの人形を抱きしめて、なんとも言えない寂しそうな表情が印象的だった。

仲間に入れて欲しそう、と言うわけでもなく、ただ周りの子達とはあきらかにまとっていた雰囲気が異質で、何もかもを拒否するような彼女に、寂しそう、としか表すことができなかった。

そんな僕の視線に気づいたのか、園長先生が小さく呟く。

「遥姫ちゃん、誰とも遊ばなくてね……」

 かなり距離はあったけど、目が合う。

それが、僕らの最初だった。



「園長先生、また来てもいいですか?」

何気ない僕の一言に、園長先生は嬉しそうに「当たり前じゃない」と笑ったくれた。


 高校入学後、すぐにバイトを探した。

これですこしは母の負担を減らすことができるかと思えば、気がラクになる。


ただ、何をするにしてもなんだかしっくりこなくて、求人雑誌を眺める日々が続いていたころ、園長先生をふと思い出してしまい、翌日には放課後訪れてしまっていた。

 新しい制服を初めてみた園長先生は嬉しそうに出迎えてくれた。

「たくちゃん、格好いい!」

 きゃっきゃとはしゃぐその姿に、すこし焦っていた自分がいたことに気づいた。

「おにいちゃーん!」

 先日のこどもたちが再び集まり始めると、身動きが取れなくなる前に園舎に入ることにした。

木のぬくもり感じるテーブルに着くと、園長先生はお茶を出してくれて、子供たちはおもちゃで遊ぶ子、折り紙を始める子、勉強している子とさまざまだった。

そういえば、僕も学校の宿題をここでよくしていたっけ。

「うーん、と……」

 算数の筆算に頭を抱える男の子。

「引けない時は十の位から借りるんだよ」

 思わずぽろっと口からこぼれてしまったけど、男の子はぱっと顔を見上げた後、「そっか!」とガシガシと消しゴムをかけて再びプリントに向かう。

「たくちゃん、今日は来てくれてありがとうね」

 園長先生の優しい声に、はっと気づく。

「いえ、僕もなんだか気分転換になりました。実は、バイトしようと思ってずっと探してるんですけど、いまいちこれっていうのがなくて。ほら、うちは母が普段は家にいないし、その間にやらなきゃいけないこともあるし、なかなか融通が利くものってあんまりなくて」

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