ふたりぼっち
手紙の表紙には、【高瀬 明彦くんへ】と書かれている。


明彦とは、私を誘拐した男が名乗った自身の名前だ。


「名字、高瀬って言うんだ……」


他人の手紙を見ることに若干の罪悪感を抱きつつも、
折り目を開く。


……ここにパスワードの手がかりが、記載されているかも知れない……。


そんな淡い期待を、胸に抱きながら。



手紙の内容はどうやら、ある女性が高瀬明彦に書いたものらしい。


【今日で明彦くんと付き合い始めて、一ヶ月になるね。
出会ってそれ程経ってないけど、私は明彦くんに出会えて本当に良かったと思います! 】


手紙の内容自体は、付き合い始めた恋人が愛する者に執筆したものだった。


やっぱり、付き合ってる人がいるんだ……。


私はそう思ったが、直後に「んっ? 」と首を傾げる。



何度も指でなぞられたのか、手紙の字が所々掠れている……。

それに、手紙自体も古い物のようだ。

何度も読み返されたのか、しっかりとついた折り目から、紙が破れかけている。


付き合っていた人がいる、と言うよりは……いた、と言った方が正しいのだろうか?



【明彦くんは優しいし、面白いし……私は明彦くんの爽やかな笑顔が、大好きです。あ、ちなみにまだアキとは何だか恥ずかしくて呼べないので、もう少し待って下さい! こんな私だけれど、これからもよろしくね。】



手紙の内容はそこで終わっていた。


そして私は、手紙の差出人に驚愕する。





手紙の差出人、それは……



【鮎川 春より。】
< 24 / 118 >

この作品をシェア

pagetop