ふたりぼっち


「高瀬先輩って、ホントかっこ良いですよね~」

「既婚者なのが、悔やまれるわぁ」



女性社員が、パソコン越しに何やらヒソヒソと話している声が聞こえてくる。


「えっ、高瀬先輩って、結婚してるんですか?! 高瀬先輩の奥さんってきっと、凄く美人なんだろうなぁ~」

「シッ! 声がでかい! ここでは高瀬先輩の奥さんの話しは、タブーなんだよっ」


「え? どうしてですか? 」

「それは……」


耳触りな噂話がチラついて、俺は思わず席を立つ。

「「あ、……」」

気まずそうに顔を見合わせる女性社員2人組。


俺はそんな彼女達を気にせず、タバコとライターを手に持ちデスクを後にした。


社内を出る直前まで、女性社員のヒソヒソと喋っている声がまだ聞こえていた。


「先輩の奥さんって、もしかして噂の……」

「そうそう、本当らしいよあの噂。なんでも、記憶喪失って……」
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