ふたりぼっち
俺は屋上の喫煙スペースで、深い溜め息を吐く。

「はぁー、……」

秋になり、少し肌寒くなった空気を感じながらタバコに火を付けた。

「なんで女は噂を耳にするのはやけに早いんだろうな」

ポツリと、独り言を呟く。


そう、俺の妻……ハルはある日、交通事故に遭ってから、記憶喪失になってしまったのだ。


更に彼女にはもうひとつ、問題がある。



彼女の記憶は、事故以来……1日しかもたない。


ハルが事故に遭ったのは、今から2年前……。



結婚式の翌々日、ハルと両親2人が旅行に出掛けた時に、悲劇は起きた。


その日俺は、ハルと住むことになっていた新居にいた。


旅行は、彼女が両親に親孝行としてプレゼントしたいと企画したものであり、俺は参加していなかったのだ。


『実家を出て行く前に、どうしても両親にプレゼントしておきたいの』


そんな親思いの彼女の強い希望もあって。

まぁ、その親孝行旅行が終わってからすぐに新婚旅行を計画していたから、俺は笑顔でハル親子を見送った。




そしてハルの父親の運転する車が、連休で交通量が多い交差点にさしかかった時……車10台が絡む玉突き事故が発生した。

ハルの父親が運転する車は、その事故に巻き込まれたのだ。

結果、助手席に乗っていた母親と運転席にいた父親は、即死。

後部座席に乗っていた彼女は、奇跡的に一命を取り留めた。


が、しかし……。
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