ふたりぼっち
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「まだアキさんとは何だか恥ずかしくて呼べないので、もう少し待って下さい」
彼女はそう言った。
その言葉には、聞き覚えがある。
……いや、忘れる筈がない。
俺が何度も何度も読み返している、手紙の言葉と全く同じだったから。
付き合っていた頃のハルからもらった、ラブレター。
そう、ハルは付き合い始めた当初俺のことを明彦さんと呼んでいたのだ。
(シャイで恥ずかしがり屋な彼女らしい呼び方だな……)
当時の俺は、そう思っていた。
だが、今……この状況で再びその言葉を口に出されることが、こんなに心を抉られるような痛みを伴うとは思いもしなかった。
極力考えないようにしていた事故前の彼女を思い出してしまい、俺の心はどうしようもなくグチャグチャに掻き乱される。
(今名前を覚えてくれても、明日には俺のことなど忘れられてしまうんだろう……)
どうして、事故に遭うのがハル親子じゃなければならなかったのか。
どうして、新婚の俺たちがこんな苦難な道を歩まなければならないのか。
どうして、俺とハルが……こんなに苦しまなければならないのか。
そんな怒りが、この胸を支配していく。
俺は無意識の内に、車のハンドルをギリギリと握り締めていた。