ふたりぼっち
やがて食卓には、熱々のカレーと水々しいサラダが並んだ。

「おー、上手そう」

「さぁ、召し上がれ」



笑顔で彼女に促され、「頂きます」と一口カレーを口に運ぶ。

熱々のル−とパリパリとした食感の油揚げの香ばしい風味が、口いっぱいに広がる。

付き合っていた頃、初めてハルが俺に作ってくれたカレーそのものだ。

「美味いなぁ」

一口、また一口とスプーンを口へ運ぶ。

一筋の涙が、頬を伝った。

愛する奥さんが手料理をふるまってくれる、そんな普通の食事風景……。


『誘拐犯が作った食べ物なんて、食べるわけないでしょ』

『いやっ、触らないでっ! 誰か、助けて……』

ここまで来るのに、2年かかった。


「美味い、……」


ハルが作ってくれる料理は、こんなに美味かったのか。

そりゃ、俺の作った不格好な料理なんて食えないよなぁ。


(……ごめんな、ハル)

目頭を押さえるが、涙は止まることなく流れる。


「明彦、さん……? 」
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