ふたりぼっち
「どうするつもりもない。お前には、ここにいてもらう。それだけだ」男は朝飯だ、とだけ言うと廊下の奥の部屋に消えてしまった。気がつくと、トーストの焼ける香ばしい香りが辺りを漂っている。耳を澄ませば、目玉焼きがジューっとフライパンの上で音を立てている。……そう言えば、いつからご飯食べてないんだろう?お腹はそれなりに空いている。しかし、いつ前の食事を摂ったか、記憶にない。誘拐されたショックで、忘れてしまったのだろうか。自分を誘拐した男のことなど、信用できない。かと言って、逆らえば殺されてしまう可能性もある。……ここは素直に従うフリをして、隙を見て逃げよう。私はそう考え、男が消えて行った方向へと足を進めた。
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