ふたりぼっち
「もしかして、貴方は……私を何かから、守ってくれているのですか……? 」

テレビで話すコメディアンの声が、どこか遠くに聞こえた。

俺は向かいの椅子に座っているハルを見つめる。

「え、今……なんて……」

彼女の瞳は、力強い光を宿していた。


「私、今日1日貴方の隣にいて思ったんです。私の両親がこんなに長く旅行に行く筈がない。あの人達は、出不精ですから……。何か事情があって、両親は貴方の元に私を預けているんじゃないですか? 」

それと、と彼女は言葉を付け足す。


「明彦さんは私といる時、凄く悲しそうな顔をしていました。貴方は凄く優しい。だから……何か私達の事情に、巻き込まれているのではないですか……? それに、至る所に何かから守る様に南京錠がつけてありますし……」


ハルは立ち上がり、俺に近づく。

「1人で抱え込まないで下さい。私にも、事情を教えて下さい。優しい貴方の負担には、私……なりたくありません。」


彼女の一字一句が、俺の苦悩する心の奥底にしみ込んで行く。


記憶を無くして1番辛い筈のお前が、俺を……支えてくれようと、しているのか……?

優しく、まるで壊れ物を扱う様に、彼女は俺の頬を両手で包み込んだ。

「木村先生が言っていた、全ての真 実を……教えて下さい……。私、どんなことでも受け入れる覚悟はできまし……」

そう言い終える前に、彼女の身体はぐらりと傾く。
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