ふたりぼっち
俺は今日1日で、また昔のハルに戻れるんじゃないかと希望を抱いてしまったんだ。



……そんな保証は、何処にもないのに。


「クソっ」

駄目だ、こんな感情。


希望を抱けば抱く程、絶望に打ちひしがれることを俺は何度も経験してきているじゃないか。

ハルが事故に遭ってから数ヶ月の間、俺は何度も期待した。

明日には、彼女はいつも通りに笑いかけてくれるんじゃないかと。

怖がらずに、俺の名前を呼んでくれるんじゃないかと。

でも結局は、同じ日々の繰り返しだった。


……心を殺せ、以前の様に。

また明日から、冷徹無慈悲な誘拐犯に、なりきるんだ。



気付けば手に持っている灰皿には、3本の吸い殻が転がっていた。

相変わらず目の前に広がる広大な海が鳴らす波の音は、いつでも静かな闇夜を支配している。


「……寝るか」

俺はベランダから自室に戻り、窓を閉め波の音を遮断した。
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