ふたりぼっち
「余計なことするなって言ったんだよ!! 」
静かなリビングに、俺の怒号が木霊する。
ハッと我に返り、彼女を見ると……目の淵に涙を浮かべながら、フライパンを握り締めていた。
……俺は最低だ。
一昨日からの記憶は覚えていれるのに、俺との記憶が戻らないハルにイラついて、でもそんな現状に少しでも期待してしまう自分にもイラついて、傷付いて。
八つ当たりをしてしまったのだ。
こんなにも健気に今を頑張ろうと努力してくれている、ハルに。
「ごめん。……少しイラついてたみたいだ。朝食、ありがとう。頂くよ」
素直に謝り、席に着く。
ハルはすぐに涙を拭い、どうぞと微笑んだ。
しかし、俺の顔は一切見ようとしない。
泣くのを我慢しているのを、見られたくないからだろう。
それ以上何も言わずに朝食に手を付けた俺を見届けたハルは、ワザとらしく話しかけて来た。
「あ、そうだ! 洗濯機の中に回りっぱなしのタオルを見つけたんでした! ちょっとそこのベランダに干しておきますね! 」
そう言うと、彼女はお風呂場にある洗濯機の中から濡れたタオルを数枚取り出してきた。
そして、リビングを通ってテレビの横にある窓を開ける。
南京錠の止めが甘かったのか、パキンッと外れて床に落ちてしまった。
ベランダから吹き込む秋風がリビングを通り抜けた、その瞬間。