ふたりぼっち


「事故の記憶を全て思い出した彼女だったんだが、君のことだけはどうしても思い出せなかったと言った。次に彼女は、私にこう言ったんだ。『彼と過ごした日々は思い出すことは出来なかったが、私は明彦さんの本当の気持ちを知りたい』、とね」

唖然としながら立ち尽くしていると、ハルが申し訳なさそうに口を開く。

「明彦さん……いいえ、アキ。ごめんなさい、私……貴方のこと、やっぱり思い出すことはできなかった……」

俺は俯き、唇を噛み締めながら黙ってその事実を受け入れる。

「でも、」と彼女が声を上げた。

「でも、私……落ち着きを取り戻した時に木村先生が、アキが私の旦那だって教えてくれて、不思議と、驚かなかったの。それよりも、嬉しい気持ちの方が大きかった。あぁ、やっぱりって納得出来たの。不思議ですよね。私の頭の中に貴方との思い出は、昨日と一昨日のたった2日間しかないのに……」

ハルはそっと服の上から、心臓に手を当てる。

「でも、心は。心だけはしっかりと、あなたと過ごして来た日々を記憶し続けていたの。”愛”という、記憶を」
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