心理戦の100万円アプリ
人懐こいな、人としては面白そうで本当に仲良くできそうだ。けど今はハートブレイク。
「僕にカード切らせて。あと優君て馴れ馴れしいぞ」
「やだ、優君て呼ぶ」
11枚しかないカードをわざと下手な手つきでシャッフルして時間を稼ぐ。情報を引き出さないと、茶髪の心が読めない。
「ふー。じゃあ賢次くんは、なんでそんな落ち着いてるの? ギャンブラーだから?」
「早く配ってよ、俺は優君と友達になりたいよ。俺よりギャンブラーに向いてそうだ」
茶髪は引き笑いをひっひっとして、楽しんでいるみたいだ。
くそ、相手が真剣にならない。馬鹿にしてるのか? カードを配り終えて、ペアのカードを捨てて行く。
「俺はあんまり友達いないからさ、馬鹿ばっかりやってるせいでね。友達になろーよ」
こんな雑談にのってる暇はない。無視だ。そしてまた山場。僕が二枚のうち、ジョーカーじゃないほうを引けば勝ち。
悩んだら読まれる。右利きだからというつまらない理由でトランプを右側を引こうとすると、さっと入れ替えられる。
「なんだよ、動かすなよ。それがやり方か?」
「いや、もう動かさないよ」
僕は少し上に出され目立つほうの一枚がきになったが、読み合いで勝つのは無理と踏んだ。僕は28歳だから、左から、1.2.3.4.……と数えていく。
「年の数かよ! そんなやついなかったわ! ひっひっ」
茶髪は机を叩いて笑う。
少しイラっときたがカードを引く。よしジョーカーじゃない、勝ちだ。
しかしなんだか不利な気がしてならない、もう少し後で聞きたかったけど勝負に出るしかない。このままでは何も解らない内にカウンターされる。
「何を言われたら傷つく?」
「いきなりかぁ、しかもこのタイミング! うんやっぱり頭いいわ。イジメられてて、モヤシとアダ名つけられてたからそれかな?」
動揺する素振りも見せず今度は茶髪がシャッフルする。
「なぁ、もし優君が勝ったら友達にならないか? 俺が負けたら言う権利なくなっちゃうから先に言っとかないと」
勝ったら友達、何いってるんだコイツ。ギャンブルの一種か?
「ああ、いいよ。勝たしてくれるならね」
パタパタとトランプが配られるカードを見ながら適当に返事をして、茶髪がカードを引くのを待つ。
「うーん、勝たせるのか。そしたら見かけだけじゃなくて本当に友達になれるか?」
なんだ、何を言ってる? 信用させて落とすのか? いや、意外にヒーラーの可能性もある。突っぱねてもいいが、この雰囲気は嫌いじゃない。
「いいよ、約束する」
ババ抜きの緊張感が薄れていく時にまた最後のトランプを引く場面がくる。
「こっちがジョーカーだよ」
きた、揺さぶり。しかしさっきの会話も気になる、試してみるか? 嘘なら今後話しがもっていきやすい。僕はその通りに引く。……勝ってる。
茶髪は笑顔で手を出す。
「とうぞ何でも?」
僕は右の親指を噛んで考える。潰す為に最善の質問は何か? そもそも友達の話しはなんなんだ? 勝たしてくれたのか? 僕は迷った挙句、スラッシャーの材料集めに専念する事に決めた。
「どんな幼少期だった?」
荒れてるやつや、何か問題があるやつは幼少期に何かあった場合が多い、もしかしたらこれで……。
『リーブ』
茶髪は残りの一枚のトランプを投げた。
「は?」
「いや、だからリーブ。俺の負け」
茶髪は両手をあげてウィンクをして降参のポーズを取る。
何を言っているんだ? ゲームを降りたのか? ケータイを見ると38ポイントが僕に入ってる。
茶髪はケータイを手に取る。
「ねー?」
「はい、なんでしょう?」
画面にボーカロイドが出現した。
「優君にさ、50ポイントあげれない? できる?」
「大丈夫ですよ。では」
すると僕のケータイ画面には、獲得50ポイント。身をのりだして驚く。
「ちょ! 何を考えてるんだよ! 50ポイント?」
「俺さ、もうノルマクリアしてるから平気なんだよね、それに勝たせたら友達だろ? それ位助けるよ」
僕はハートブレイクに勝たせてくれた事実から今度こそ本当に裏がないのを理解して、どかっと腰掛けた。
「いいだろ? 優君。情報交換もできるし、俺じゃ嫌か?」
結果ポイントを獲得できたのもあり、本気で友達と言っているのを信用したら緊張感からの解放からか気が楽になって力が抜けた。
「完璧にケンジには負けたよ、今日は遅いし話しながら飲むか」
「うっしゃぁぁあ! ロイヤルストレートフラッシュうう!」
ケンジはトランプを宙に美しくばら撒いた。
僕はゲームがまだ行われている時間内にも関わらずケンジとビールを乾杯した。彼はポイントと引き換えに友達として僕を選んだのだ、祝杯の一つもしないとバチが当たる。
「なぁ賢次、今何ポイントあるの?」
「プラス80くらいかな。さっき50引かれて30くらい」
「え! 次ハートブレイクされたらヤバくね?」
「大丈夫、ババ抜きで勝つから」
ケンジはジョーカーのカードを取り、裏表をくるくる見せる。
「ババ抜きそんなに強くなかったじゃん」
「実はイカサマして勝つんだよ」
ケンジはビールの残り一口を飲み干して小声で言う。
「え?不正無しじゃないの?」
「バレたらイカサマ、バレなければイカサマにはならないよ。第一トランプ勝負なんてイカサマ無しが全部前提なんだから確認する必要もない」
本気でこられてたら簡単に負けてた、真剣な顔に戻り問いただす。
「どーやんの?」
ケンジはもう一枚拾い、2枚カードを出した。
「ジョーカーじゃないほう引いてみて」
1枚引くとジョーカー、ケンジは残りの1枚を裏返してみた。
「あ! そっちもジョーカー!」
ケンジはマジシャンの様に何もない所から何枚も何枚もジョーカーを出す。
「イカサマは一種類じゃバレるから、何種類も用意してあるんだ」
「俺には何でしなかったの? 友達になりたくてか?」
「そーだよ、最初に言ったじゃないか」
「優君はプラスいくら?」
「マイナスだよ、かなり」
「え! 優君絶対強いでしょ? どんなやつに負けたの?」
「いいよ、話すから情報交換ね」
「まだ疑うのかよ! いいよ俺は全部話すから!」
2人共酒は辞めて真剣に全て話した。
「キャバクラはとにかく、モヒカンかぁ。それと会うとヤバイな。何処ら辺にいるの?」
「あいつは多分どんどんスラッシャーしに動いてるはずだよ」
「ヤバ、俺ここだったら逃げられねーじゃん、トランプなんか絶対受けなさそーだもんな」
「ケンジの情報も役にたったし、随分やり易くなった。じゃ悪いけど深夜だけど相手探してこなきゃ」
ケンジは立ち上がり急ぐ僕を片手を広げて進路を塞ぐ。
「ちょい待ち! なんのための友達だよー。これはチームを組んだ方が圧倒的に有利なんだ。信頼関係からそれを築くのはむつかしいだろうけどね。みんなプライド高いか、変なやつばっかだから無理だろうけど。俺も一緒にいく」